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YIDFF 2003 アジア千波万波
蒲公英的歳月(たんぽぽのさいげつ)
任書剣(にん・しょけん) 監督インタビュー

「面白い」と言われると、複雑な気持ちになる


Q: 一家との出会いのきっかけは?

RS: 一家の四男と出会ったのは、私が東京に来て間もなくの事です。2年後、日本映画学校で卒業制作を作る事になって、不法滞在者の問題を色々調査をしていくうちに、彼の一家の話を思い出したんです。自分としては、彼らはなぜそのような悪い事をするのか、という怒りがあって、はじめは、余り彼らと付き合いたくはありませんでした。彼らの方も、自分たちの生活の実態を知られたがらなかった。しかし、色々話をして、良い人間関係を作らないことには、彼らの本当の生活の奥には入れない。そこで彼らの仕事を手伝ったり、一緒に生活をしたりするうちに、身内というか、家族的な雰囲気が出てきました。そのような付き合いの中で、私の方にも彼らに対する同情の気持ちが芽生えていったんです。

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Q: 撮影の段階で、他に何か心掛けた事はありますか?

RS: 彼らがなぜ“家族の絆”を捨てて日本に来るのかは、丁寧に描きたかった事です。彼らも別に悪い事をしているつもりはなくて、一所懸命仕事をして、お金を稼いで、家族と幸せに暮らしたいという気持ちなんですね。但しそれを中国では実現できずに、日本に来て法律の壁にぶつかってしまう。彼らはよく「我々には明日がない」という事を言っていました。いつ逮捕されてもおかしくないから、一所懸命仕事をする。撮影期間中は、本当に色々な事件が起こりました。もし中国できちんと生活が出来ていたら、日本に出稼ぎに来なくて済むんですよ。それは人間としては悲しい事ですよね。

Q: では彼らはなぜ、そのようなリスクを犯してまで日本に来るのですか?

RS: 実は昔に比べれば、中国でも良い仕事を見つけるのは簡単です。しかし彼らの住む福建省は、華僑発祥の地といわれ、周りが海外に出稼ぎにいって、収入が良いという話になると、みんな海外に行ってしまう。そういう人にチャンスを与える為の、密入国斡旋業者もいるし、伝統のような空気もある。作品にも出てきますが、海外で稼いだ金で御殿を建てて、自分の家族は幸せなのよ、という事をアピールする。あんな派手なこと、普通はしませんよ。その辺は、僕にも理解できないところがあります。

Q: 留学生の任さんとは、随分立場が違いますね?

RS: 同じ中国人なのに、私と彼らで全く違う生活をしているのは、とても厳しい現実です。今、中国はものすごい勢いで、経済発展していますが、最大の問題は、そのバランスが崩れていることです。今後我々の世代が頑張ることで、確実に改善するとは思いますが、まずは中国の経済が、日本並みに追いつく事が先決です。不法滞在者の問題は、基本的には、中国の福祉や社会の問題だと私は思っています。

 この作品を発表した時、何人かの人に、面白いと誉めていただいたのですが、とても複雑な気持ちになりました。私としては、面白い作品を作るつもりは無かった。同じ21世紀を生きる人間として、なぜ彼らがそういう暮らしをしなければならないのか? 自分の国の人間が、自分の国では生きてはいけないから外国に行く、そんな国の悪い部分は、私自身余り知られたくはないんです。とはいえ、人間は様々な社会の顔を持っていますから、まずは現時点での彼らの生活を見ることで、彼らのありのままの人間性を、感じて貰えたら良いなと思っています。

(採録・構成:佐藤寛朗)

インタビュアー:佐藤寛朗/通訳:なし
写真撮影:加藤孝信/ビデオ撮影:加藤孝信/2003-10-06 東京にて