今年の映画祭
ここ数年「アジア千波万波」において、数多く中国のインディペンデント作品が注目されてきたが、今年は「インターナショナル・コンペティション」に、中国から9時間以上の大作が出品される。中国のインディペンデント作家の力量を余す所なく示している作品である。その他、やはり「アジア千波万波」で上映され、1999年の「アジア千波万波 スペシャル・プログラム」でも来形した台湾の映画製作集団・全景を率いる呉乙峰監督が、99年の台湾大地震後に数年かけて完成させた作品や、フィリピンの先住民族の血を引く監督の作品など、「インターナショナル・コンペティション」でもアジアからの作品が欠かせなくなっている。そして、「アジア千波万波」では、さらに多くの若い作家たちのバラエティあふれる作品が上映される。とくにイラクやアメリカをも視野に入れた核問題についての日本作品は、現在の世界情勢にもつながる作品として注目されよう。
前回の映画祭の直前にアメリカでの9.11の事件があり、映画祭開催中に米軍によるアフガニスタン爆撃が始まり、その後イラク戦争に至るまでになった。パレスティナでもイスラエルの武力侵攻とパレスティナの自爆テロの報復合戦が続いている。1968年に世界中で、ベトナム反戦運動や体制に対する異議申し立てが沸き起こり、アメリカではニューズリール運動が始まって、多くの作品が体制変革を望んで製作された。今回の「ヤマガタ・ニューズリール!」では、当時の作品群とともに、2003年現在の反戦・平和運動の作品群を併せて提示し、ドキュメンタリーと社会との関連を探っていく。
もうひとつの大きな特集として、今年は“沖縄”を取り上げる。現在は日本の中にありながら、歴史的にも地勢的にも、特殊な位置を占めている地域である沖縄。戦前の日本の南方進出の拠点となり、沖縄戦の悲惨な舞台となり、アメリカ占領、1972年の日本復帰後もアメリカ軍基地に土地の多くを占められ、日本やアメリカに対しての独特のスタンスを持ち、アンビヴァレントな感情が渦巻く沖縄を、沖縄の作家自身が撮った映像と日本やアメリカ、ヨーロッパから撮った映像を併せ、劇映画、テレビ番組を含めていまだかつてない規模で上映する。沖縄民謡のライブ付き上映などもあって心踊るイベントであるとともに、沖縄、日本、世界を見直す厳しいイベントでもあり、多大の刺激を与えることになるだろう。
刻々と変化する世界に深いところでつながっている映画祭で、現在、過去、未来の作品群からのインパクトをどのように受け止めていくか、今年もまた、楽しい、心に深く響く映画祭が期待される。
矢野和之