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YIDFF 2019 アジア千波万波
あの雲が晴れなくても
ヤシャスウィニー・ラグナンダン 監督インタビュー

回るキャトケティを通して見る万華鏡のような世界


Q: どこか懐かしさを覚える映画で「キャトケティは1分間に100回転するが、地球は24時間に1回転だ」という、労働者風の男性が口にした詩的な言葉が心に残りました。

YR: この言葉は私も非常に心に残っており、映画の方向づけの本質となるものでした。舞台は、インドとバングラデシュの国境から車で約3時間に位置するインド東部ベンガル地方で、バングラデシュからの出稼ぎ労働者が多く集まる場所です。この地域には「止まることは死である」という、無常観を色濃く反映した概念があります。かつてはムガル帝国の支配下にあったという、土地の歴史も影響しているのかもしれません。

 キャトケティとは、かざぐるまに似た子ども向けのおもちゃですが、回転し続けるキャトケティは「生の象徴」としてこの死生観を反映したものです。撮影しているカメラも、絶えず動いているという点で同様です。このように、撮影対象者の方から直接言葉をもらえるのはとても重要なことだと思います。

Q: 言葉といえば、劇中で子どもたちがくり返し言っていた「僕たちはルビーを見つけなきゃいけない」も暗喩めいていて興味をひかれましたが、これはどのような状況で撮影されたのでしょうか?

YR: 私は撮影するなかで、一種の遊びを仕掛けました。ルビーは地元の伝承にもなっている宝石であり、彼らが持っていた懐中電灯は「探す」行為を示唆しています。

Q: 子どもたちは、空に浮かぶ月をルビーに見立てていましたね。映画の終盤で月食が起き、これも印象的だったのですが、月食が起きることは想定されていたのですか?

YR: 月食が起きたのは偶然でしたが、月食は、この地に住む人々の置かれた厳しい状況を示唆しています。彼らは決して裕福ではなく、簡素な家に住み、キャトケティ作りといった家内工業で生計を立てています。

Q: 「あの雲が晴れなくても」というタイトルもそういったシビアな状況を反映しているのでしょうか?

YR: 撮影を行った時期は、モンスーンの影響を受ける雨季にあたります。いつ雨が降ってもおかしくない、だから雲が晴れない。もちろん彼らが生きていくうえで直面しているネガティブな要素を暗示してもいます。

Q: 映像には、ピンクをはじめとした、様々な色や質感をもった画像が散りばめられ、とても幻想的でした。どのように作られたのですか?

YR: キャトケティの羽根の部分を切り取って透かし、映像に取り込みました。また、同様にして映画のフィルムなども使いました。もともとフィルムの中にあった色や傷が映像に重ねられています。

Q: 作品を通してキャトケティはじめ「おもちゃ」が随所に登場します。おもちゃを作っている職人の方たちが、フィルムを切っておもちゃの素材にしていたのを思わず「もったいない!」と感じてしまいました。

YR: 彼らにはそういう考えはなく、フィルムはあくまで素材であり、歴史的・アーカイブ的な価値を持つものではありません。私はこれらのおもちゃに魅せられていました。誰が、どうやって作るのか。また、おもちゃ作りを通して、彼ら作り手の世界を見てみたかったのです。人生とはそういったものを学ぶ、教えてもらう場だと思います。

(構成:石塚志乃)

インタビュアー:石塚志乃、大下由美/通訳:松下由美
写真撮影:菅原真由/ビデオ撮影:菅原真由/2019-10-12