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YIDFF 2019 インターナショナル・コンペティション
これは君の闘争だ
エリザ・カパイ 監督インタビュー

学生運動は思想なき馬鹿騒ぎか?


Q: この映画は学生運動に参加する3人の学生、コカ、マルセラ、ナヤラのナレーションで進んでいきますが、彼らに依頼した経緯を教えていただけますか?

EC: コカを選んだ理由は、どんなときでも楽しく問題を訴えていたからです。もうすぐ警察が踏み込んできて、どんな暴力を振るわれるか分からないという緊迫した状況でさえ、彼は歌っていました。マルセラは、彼女の学校内部の映像を提供してくれた人から紹介されました。マルセラの髪型の変化はブラジルにおける黒人女性の髪型の変遷の歴史を表しています。マルセラが参加したデモで、黒人女性のマリアが警察官に暴力を振るわれる場面は、ブラジルにおける黒人女性の扱われ方を、映像で雄弁に表すものになったと思っています。ナヤラを選んだ理由は、彼女が抗議活動を通じて大きく成長していったためです。たとえば、学生たちを纏める、警察に抗議する、また政治家たちと対話をする、そういった能力を開花させていきました。

Q: 学生運動のなかで、彼らにどのような変化が起きましたか?

EC: 学生たちは、運動を通じて劇的に変化します。学生運動のコミュニティで仲間を見つけ、自分らしくいられる安全な空間を見いだします。たとえばナヤラは、そのコミュニティのなかで同性の恋人をみつけ、そこでは非難されずに彼女と一緒にいることができました。彼女の変化・成長はすべて、自分自身でいることを恥ずかしいと思わずにいられる、安全なコミュニティだからこそ実現したことです。学生運動は参加者にとって、政治と楽しみ、そして喜びが一体となった活動でした。そういった環境では、人びとは各々の夢やその実現について語りはじめますが、それは権力者にとって非常に不都合なことです。なぜなら、権力者は社会の底辺にいる人びとが、そこから脱出することを望んでいないからです。

Q: 作品構成は、撮影を始める前から決定していましたか?

EC: はじめは、学生運動を外側から観察する映画を撮ろうと思っていました。撮りはじめた時、誰が学生運動を代表するのかが非常に大切な問題だと思い、構成を変更しました。また、若者たちと映画を通じてコミュニケーションをとるにはどうしたらいいかを考えました。今の高校生たちに映画を見てもらうためには、音楽を使うこと、話のペースを速くすることが大切です。それは、映画の編集過程で気づいたことです。

Q: 必死の抗議運動も虚しく、ブラジルには極右政権が誕生してしまいましたが、次回作ではどのようなテーマを扱う予定ですか?

EC: 2014年から考えつづけているプロジェクトがあります。それは、愛についての映画を撮ることです。いろいろな場所で撮影し、そこにいる人に「愛とはなんですか」という質問をしたいです。とくに、愛が枯渇しているところ、ブラジルでも最も暴力事件が多い都市や、土地の所有権を巡って何人もの人が殺されている州、そういう場所でインタビューをしてみたいと考えています。愛というのは、男女間の愛のことだけを言っているのではありません。たとえば自然への愛や社会への愛もあります。人間には、他の人びとの文化や考え方を知りたいという欲求があり、それに共感する能力があります。一方で、人間が他の人間を殺すこともあります。そういう人間の二面性について、次回作では描きたいと考えています。

(構成:板垣知宏)

インタビュアー:板垣知宏、宮本愛里/通訳:山之内悦子
写真撮影:菅原真由/ビデオ撮影:菅原真由/2019-10-15