佐藤千穂 監督インタビュー
沈黙の故郷
Q: 当事者である被災地の方々のリアルな意見が聞ける貴重な作品で、素晴らしいと思いました。僕は学生で、来年福島のドキュメンタリーを撮りたいと思っているんですが、とても刺激を受けました。今作を撮ったきっかけは何ですか?
SC: 東日本大震災が起こったときは、フランスに留学していたので、日本で何が起こっているのかよくわからなくて、ただただ混乱していました。その年の7月に福島に帰ったら、何だったんだあれは、っていうくらい何も変わっていなかったのですが、それも含めて「あなたの両親や家族は本当に大丈夫なの?」ってフランスの人にすごく心配されたんです。なので、じゃあ、撮影してきて、それをお土産にして観せるねって。それが撮り始めるきっかけでした。
福島では、危機感を持つこと自体がつらいからやめようという人がほとんどで、それとフランスの友人たちが危機感を覚えていたこととのギャップを撮影したら、面白いのではないかと考えました。ですが、福島の人々への「なぜ安心して暮らせるのか?」「離れられないのか?」といった問いかけ自体が、彼らを傷つけるようなデリケートな問題になってきていて、誰も話をしなくなっている現状を、どうしたら外国の、特にフランスの人たちにわかってもらえるかというのが、ひとつの挑戦でした。
Q: 監督は、原発はなくなって欲しいと考えていますか?
SC: そうですね。ただ、この映画は「反原発」の人だけに向けて作ったものではないので、いろんな人に観てもらいたいし、意見の交換ができればいいなと思います。自分の意見が正しい、って固定してしまったら何も進まないじゃないですか。父が、福島の現状について声をあげることを「諦めている」と言っているのですが、それはほんとにショックでした。もし諦めている理由が、「人の前で意見を言いたくない」「自分の主張をしないで、周りの人と同じように生きていきたい」だったりしたら、すごくヤバイなと。そういう雰囲気が日本にあるんじゃないかと、とても不安です。みんなと同じように、変わりなく住むために何かすごく大切なものを犠牲にしてしまう、それは怖いなと思います。
Q: ナレーションを聞いて思ったのですが、本当は家族をディスカッションの場に巻き込んで撮影したかったのですか?
SC: 私の言っているディスカッションにはまだまだなっていないですけど、ただ、本音というか、思ってることを素直に言ってもらえました。まず、この映画を撮る前、家族はまったく喋ってくれなかったんです。2011年は、両親も事故に対する不満でいっぱいだったので、いろんなことをみんなで喋ったりしたんですけど、段々忘れてきています。その後、こういうコメントが取れるんじゃないかと予想して企画書を書きましたが、2015年に実際に取材に行ったときは、忘れたいという気持ちが強くなっていて、喋ってくれなくなっていました。放射能の話が出ると、父がさりげなくどこかに行っちゃったり。カメラの前では話してくれるんですが、本音は言ってくれなかったですね、ずっと。なのでラッシュも70時間くらい廻して、そのうちのちょっと喋ってくれたシーンを繋いでるんです。
私はこの話題が話しやすくなることによって、現状が変わってくると思います。お茶飲みついでに、「こういうことがあるんだけどどう思う?」って、みんなが話せればいいと思います。
(構成:棈木達也)
インタビュアー:棈木達也、桝谷頌子
写真撮影:黄木可也子/ビデオ撮影:赤司萌香/2017-10-08