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YIDFF 2015 ともにある Cinema with Us 2015
波あとの明かし
坂下清 監督インタビュー

わからないことをみつめる


Q: 作品では松明かしをテーマに、宮古市の人々のさりげない素振りや何気ない会話を引き出せているように感じました。しかし、由来や意味に関する質問に対し、現地の人々はうまく答えることができていない様子でした。撮影の前からそうなることを想定されていたのですか?

SK: いや、まったく想定していませんでした。誰かが松明かしの由来や意味について明確な知識を持っているだろうと思っていたので、その部分のみを編集すれば、15分ほどの作品になるだろうと考えていました。

Q: 求めている答えがすぐに返って来ないことに対するもどかしさはありませんでしたか?

SK: 初日に訪れた家族はだめ、2日目に訪れた家族もだめで、その繰り返しでした。もどかしさはありました……。 でもそのような様子もこの風習を理解する1つの手掛かりになるのではないかと思い、使うことにしました。

Q: そもそも宮古の松明かしをテーマにしたきっかけは、何だったんでしょうか?

SK: 18歳になって京都に出るまで、作品の中の人たちと同様、松明かしをやって当然の家庭に育ちました。宮古を出て、大学でできた友だちとお盆休みに何をするか話していたとき、「お盆は松明かしがあるから家に帰る」と言うと、「え、何それ?」って聞かれて、何も答えられませんでした。その年の夏、帰省して図書館に調べに行ったのですが、松明かしに関する資料は一切ありませんでした。そこから始まったのかもしれません。

Q: 写真家として活動されるかたわら映像も撮られていますが、震災前と後で活動内容はどの様に変化しましたか?

SK: 写真家として、最初に賞をいただいた作品は都市をテーマにしたものでした。震災の直前には、その作品の映像版をやろうとしていたのですが、震災が起きるとそれどころじゃなくなって、発表はその数年後になりました。震災前はそのような美術作品寄りのものを作っていたのですが、多くのミュージシャンやお笑い芸人たちが、被災地の復興で活躍する一方、美術はほとんど無力であるように感じました。宮古の人々がそのような美術作品を本当に喜んでくれるのかなって。

Q: 写真と映像にはどのような違いがありましたか?

SK: 昔、何回か松明かしをテーマに写真作品を撮ったことがあります。でも自分の思っていたものと違ったんです。やたら暗いんですよね。職業病というか、なるべくインパクトのある絵を撮りたくなっちゃうんですよね。でも、それは誇張された世界であって、真実っぽくみえちゃうのに抵抗があって。宮古を撮るのは、僕は写真では無理だと思ったんです。

Q: 現在、川内鹿踊についてのドキュメンタリーを制作中ということですが、宮古の風習を撮り続けるのはなぜですか?

SK: あまり関心を持つ人がいないんですよね。なので、興味を持つ人がひとりぐらいいてもいいと思うんです。今は、「やって当たり前」という認識ですが、放っておいたらたぶん廃れていく風習だと思うんです。宮古にはそういうのがたくさんあって、それを1つずつ扱っていきたいと考えています。

Q: 最後に、観客にどのようなところに注目して観てもらいたいですか?

SK: 歴史を前にした時、人間に理解できることは本当に限られていると思います。なので上映のあと、観客を分かった気にさせることは避けたいと考えてきました。「何も分からなかった」というのがベストの感想かもしれませんね。

(採録・構成:川島翔一朗)

インタビュアー:川島翔一朗
写真撮影:楠瀬かおり/ビデオ撮影:楠瀬かおり/2015-09-24 大阪にて