イアン・トーマス・アッシュ 監督インタビュー
本当のことを伝え、子どもたちを守りたい
Q: 福島の子どもたちに、将来甲状腺ガンの原因にもなりうる膿疱ありということを示す、A2判定が出始めているという事実は、衝撃的でした。そのことを知ったきっかけは何だったのですか?
ITA: 前作『グレー・ゾーンの中』は、南相馬で撮影を行ったのですが、南相馬よりも原発から離れているにもかかわらず、放射線量が高レベルの地域があるという話を聞いて、川俣町や伊達市、福島市に行って話を聞くうちに、この話が出てきました。「こんな重大なことがテレビにも新聞にも取り上げられていない、じゃあ僕がやらないといけない」と思い、撮影を始めました。TwitterやFacebookでは話されていることなのです。でもテレビでは言わないし、新聞にも載らない。だから証拠を残さないといけないと思ったのです。5年後に影響があったとわかっても遅い。5年後10年後、膿疱があっても何も問題はなかったという結果になったら、「心配かけちゃってごめんなさい」って僕は謝ります。避難しなくていい方たちを避難させて迷惑をかけるほうがましですよね。オーバーなくらいのほうがいいのです。
Q: 小学校の校内を無許可で撮影していて、教頭先生ともめるシーンがありますが、その時の心境はどういったものだったのですか?
ITA: あれは、ルール的には教頭先生が正しかったです。もし自分があの学校に子どもを通わせていたなら、やはり見知らぬ人に勝手に撮影されたくないですから。そう思い謝ったのですが、その時、「学校のすぐ隣にあるホットスポットのことよりも撮影の許可を取ることの方が大事」と言われ、自分でもびっくりしたのですが、急に怒りが込みあげてきて、あんなふうに怒ってしまったのです。お母さんたちと長く一緒にいたせいなのか、まるでお母さんたちの怒りが乗り移ったかのような感じでした。
Q: この映画では、放射能から我が子を守るために、危険性を訴えるお母さんたちが多く登場しますが、一方、あまり気にせず子育てをしているお母さんたちもいると思います。そのことについてどう考えますか?
ITA: そういったお母さんたちのほうが多いです。でも、そういった方たちに、こうしたほうがいいとか意見をするつもりはありません。僕が望むことは、この映画を観て考え、どうするべきか自分たちで決めてほしいということなのです。国は信用できなくなっている。「これは安全です」と言われても、安全の基準が信じられなくなっています。本当に正しい情報を得て、その中から何を子どもたちに食べさせ、何を食べさせないのかを決めるという自己責任にするべきです。
Q: 原発問題を追い続けていくということは、ときには国と闘うことになってしまうかもしれませんが、それについてはどうお考えですか?
ITA: 僕には何もできません。ハチドリという鳥を知っていますか? 森が火事になったとき、動物たちはどうしようどうしようとただ見ているだけ。でもハチドリは、バカにされながらも小さなくちばしでちょっとずつちょっとずつ水を運ぶんですね。ひとりでは何もできないけど、みんなで一緒に力を合わせればできるんです。だから、みんなで力を合わせて火事を消しましょう!
(採録・構成:鈴木規子)
インタビュアー:鈴木規子、佐藤寛朗/通訳:谷本浩之
写真撮影:岩田康平/ビデオ撮影:藤川聖久/2013-10-12