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YIDFF 2009 ニュー・ドックス・ジャパン
アンナの道 〜私から あなたへ…
直井里予 監督インタビュー

見えない変化を見ていきたい


Q: 本作は、『昨日 今日 そして明日へ…』の続編ですが、続編を撮ることにした理由はどのようなものでしょうか?

NR: 前作を見てくださった佐藤真さんから、「アンナとポムをもっと撮れ」とアドバイスされたんです。私自身、前作の時はアンナとポムに、ちゃんと向き合えていなかったんじゃないかと感じていて、もっと彼らのことを見つめたかった。ポムに続編を撮りたいという話をしたら、「今度は僕の家に泊まって、僕らの生活を朝から晩まで撮ったほうがいい。そうしたら違う面が見えるから」と言われたんです。その時、前作の足りなかったところを指摘されたような感じがしました。

Q: 前作と比較して、撮られる側のアンナとポムに何か変化はありましたか?

NR: ドキュメンタリーとはこういうものだというのが分かったみたいで、自分から動いてくれるようになり、そういった意味では楽でした。その反面、ふたりが「演じる」ようになってしまった。卵売りの撮影から始めたんですけど、朝、私が起きたら、ふたりがお揃いのGジャンを着て、ばっちりキメていたんです。会話も、前作だと何もしゃべらない時が多かったのですが、あえてしゃべるようになった。だから自然さがなくなったというところからスタートしましたが、撮影が進むにつれて、肩の力が抜けていった感じはします。

Q: 前作と同じく、ふたりの日常生活がていねいに描かれている中、ポムが家出するという出来事が起きましたね。

NR: もう映画を撮り終えたつもりで、バンコクで編集を始めていた時に、アンナから、ポムが家出して、南タイにいるという連絡を受けたんです。私がアンナと一緒に南タイに行って撮影すれば、劇的なストーリーになるというのは分かっていました。でもポムは、HIVに感染したということを南タイの家族に話してなかったので、私がカメラを持って行くと問題が生じるかもしれなかった。だから迷いに迷った末、行かないことにしたんです。ドキュメンタリーというのは人間関係を構築していくのが基本であって、人間関係が壊れたら意味がないと思うんです。だから、人を傷つける可能性が1パーセントでもあるなら撮らないというのが、私の中で基本的にあるかもしれません。

Q: 直井さんの映画の中では、時間がゆったりと流れているように感じます。

NR: 同じ所を何回も繰り返して見るのが好きなんです。たとえば同じ家に何回も行っても、そこの空間はそんなに変わらないわけですよ。でもその場に行くと、自分の変化が見えてくる。それに変化があまりない所を見続けることによって、それまで見えていなかった変化も見えてくる。だから大きな変化がないほうが、おもしろいんです。

Q: 次回作についてお聞かせください。

NR: ビルマ難民のキャンプで撮影しています。そこに『昨日 今日 そして明日へ…』に出てくるボーイの生まれ変わりのような子がいて、その子を主人公にして彼の成長を撮っています。小さくて何もないキャンプなんですが、何も起きないからこそ見えてくるものを描き、そうすることで私自身の変化も追っていきたいんです。これからも生きるとはどういうことなのかをドキュメンタリーで追求していく、そこはぶれちゃいけないな、と思っています。

(採録・構成:村上由美子)

インタビュアー:村上由美子、芝克弘
写真撮影:芝克弘/ビデオ撮影:加藤孝信/2009-09-28 東京にて