english
YIDFF 2009 アジア千波万波
グリーン・ロッキング・チェア
ロックスリー 監督インタビュー

家族・歴史・映画――“バイバイン文字”は芸術作品のようだ


Q: フィリピンの文字と歴史の関係について、お聞かせください。

R: バイバイン文字というのは、スペイン植民前にフィリピン人が使っていた文字です。スペイン人は、キリスト教とアルファベットを持ち込みました。彼らは自分たちの影響力を行使するため、元々フィリピン人が使っていた文字を廃れさせてしまったんです。

Q: マンニャン族の文字を教えている場面がありました。マンニャン文字というのは、フィリピンの一部では今も使われているんですか?

R: マンニャンとバイバインは大変似ているけれども、ちょっと違うんです。バイバインはほとんど使われておらず、マンニャンはまだ現役です。バイバインこそが、フィリピン元来の文字です。映画を作りはじめた時に、元々使われていた文字であるバイバインを探そうと思ったのですが、その途中で似たような文字のマンニャンがまだ使われているということを知り、それでこちらにも興味を持つようになりました。

Q: KKK(カティプナン)の人が出てくることと、そうした文字の話とはどういう関わりがあるのでしょう?

R: KKKというのは、スペインと闘った地下抵抗組織の頭文字です。19世紀末当時、ある意味でフィリピン人はスペインに勝ったんです。勝ったということはつまり、バイバインを完全に消滅させることはできなかった、バイバインは今でもまだどこかにある、生き残っているということです。

Q: そこでホセ・リサールの話に繋がると……。

R: そうです。彼はスペインに抵抗するために、いろいろな文章や絵を発表しました。そのリサールを象徴する形でKKKの旗を振っている男が登場します。途中出てくるアニメーションの「猿と亀」の原話もスペインに抵抗するためのもので、スペイン(猿)とフィリピン(亀)の関係を象徴しています。

Q: 以前のロックスさんの作品は、個人的な関心や抽象的な内容によるもの、純粋なアニメーションが多かったと思います。今回、歴史を振り返ることをテーマとされていて、これには驚きました。また、文字やフィリピン固有の歴史と、家族のエピソードとを作中で混ぜこぜにすることで、歴史を自分たちのものとして、自分のこととして掴もうという狙いを感じました。こうした視点が生まれてきたのはなぜでしょうか?

R: 作品は、確かにそのような移り変わりをしています。あなたは、私が今していることも含めて、とてもよく理解していらっしゃいますね。それ以上、私のほうから説明する必要もないくらいです。

Q: 撮影には、2年間かけられたと聞きましたし、ロックスさんとしてはこれまでにない長編作品で、1時間を越えています。今作には、家族ができたからというだけでは言い尽くせない、強いモチベーションがあったのではないかと思いますが、いかがでしょう?

R: 家族によって、かなり刺激を受けたことは確かです。新しい映画を作りたいという気持ちが、家族を持つことで湧いてきました。それで、映画の中に息子も出てきます。それとともに非常に強く影響を受けたのは、バイバイン文字そのものです。初めて見た時には芸術作品のようだと思いました。だからこそ、映画の中でアニメーションにもしたんですね。あの曲線・形、それ自体がとても素晴らしいものだと私には思えました。それでこの映画を作ったわけです。

※カティプナンは「祖国の子どもたちによる至高にして崇高な会」の略称で、KKKはその頭文字

(採録・構成:芝克弘)

インタビュアー:芝克弘、桝谷頌子/通訳:新居由香
写真撮影:佐々木智子/ビデオ撮影:森藤里子、村山秀明/2009-10-12