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YIDFF 2005 アジア千波万波
南方澳(ナンファンアオ)海洋紀事
李香秀(リー・シアンショウ) 監督インタビュー

フィルムでしか、この作品は表現できない


Q: 最近のドキュメンタリー作品は、ビデオで撮られることが多いようですが、この作品はフィルムで撮影されていますね。

LH: 海の広さを、どのように表現するかということで、フィルムを用いました。私は、フィルムでの撮影を学生時代に学んだということもありますが、海の雄大さと質感、光と影の雰囲気を表現するために、フィルムで撮るということが基本だったんです。また、漁師たちと大自然の共生と闘いの雰囲気をとらえ、フィルムでキッチリと質感を出すということは、この作品の大きな“ねらい”でした。デジタルビデオは、ひとりでも撮影ができるので、非常に便利な機材です。しかし、フィルムカメラで撮影する場合は、少なくとも3、4人のチームを組み、ひとつのクルーを立ち上げる必要があり、人件費も高くなりますしフィルム代も要ります。資金面は、非常に苦しく借金もしましたが、私は後悔していません。このテーマで作品を撮るためには、フィルムが最良だったと思っています。

Q: 撮影期間は何日くらいかかりましたか?

LH: 準備期間が1年で、撮影に2年かかりました。

Q: 遠洋漁業なら長い時で6カ月は戻らないと、映画の中で紹介されていましたが、相当長い期間を漁師たちと船内で過ごされたのですね。

LH: 船に乗って取材したのは、サバやアジの漁だったので1カ月くらいです。撮影スタッフも1カ月乗船するつもりで乗り込みましたが、台風が来たので少し早めに戻ってきました。

Q: 撮影していて困難だったことはありましたか?

LH: 船上での撮影では、波が大きくなると、機材の固定や撮影スタッフの船酔いに悩まされましたね。スタッフの船酔い対策、彼らの健康管理なども大変でした。また、天候や時間、網を下ろす場所など、漁師たちに合わせないといけないことにも苦労しました。そして、ひとつだけ残念だったのは、私が女性だったので、一緒に船に乗って漁に出られなかったことです。もし、私が船に乗って、彼らと生活を共にして撮影ができていたら、女性の目で見た、陸地とは違う漁師たちの姿が、撮影できたのではないかと思っています。

Q: 音楽が、とても良い曲でしたね。

LH: 良い作曲家と出会えました。彼も海に興味があるので、私の考えを大変よく理解してくれました。また、大陸やフィリピンから出稼ぎに来ている漁師たちの感情も、理解できる人でしたので、各場面に相応しい曲を作ってくれたと思います。

Q: あの場所を撮影地に選んだ理由は?

LH: 以前に2度行ったことがあり、美しい景色がとても印象に残っていたので選びました。

Q: カタログの監督の言葉で、「最後に一番得るところが多いのは、いつも私自身なのだった」とありますが、今回は何が得られましたか?

LH: ドキュメンタリーを撮る度に、多くの人に話を聞きいろいろと勉強することができます。今回は、外国人漁師たちの台湾の漁業への関わりや、出稼ぎに来ている彼らの気持ちが、撮影を通してわかりました。地球温暖化による漁獲量の減少で漁師の生活が苦しくなっていること、また漁師の後継ぎ問題も知りました。

 ドキュメンタリーを撮っていると、人間というものがわかってきます。その人たちがどういう態度で人生に臨んでいるか、内面の動きがよくわかるので、とても興味深いですよ。

(採録・構成:楠瀬かおり)

インタビュアー:楠瀬かおり、西谷真梨子/通訳:樋口裕子
写真撮影:海藤芳正/ビデオ撮影:山口実果/ 2005-10-09