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    Darwin's Nightmare

    - オーストリア、ベルギー、フランス/2004/英語、ロシア語、スワヒリ語/カラー/35mm(1:1.85)/107分

    監督、脚本、撮影:フーベルト・ザウパー
    編集:デニーズ・ヴィンデフォーヘル
    録音:コスマス・アントニアディス
    製作:エドワール・モリア、アントニン・スフォボダ、マルティン・フシュラハト、バルバラ・アルベルト、フーベルト・トゥワーン、フーベルト・ザウパー
    製作会社:ミル・エ・ユン・プロデュクシオン、コープ99・フィルム・プロドゥクスィオーン、サガ・フィルム
    配給:セルロイド・ドリームズ

    1980年代、試験的にアフリカ・ビクトリア湖に放された淡水魚ナイルパーチは、200を超える在来種を食べ尽くし、タンザニアに一大魚産業を産み落とした。その背景にある貧民層の慢性的な惨状の数々。主にEUと日本に輸出されるその魚を運ぶロシア製貨物機が運び入れるのは、国連物資だけでなく、内戦向けの武器輸入の陰も見え隠れする。グローバル化がより強固にしていく北と南の搾取的構造を見事に露呈した醜悪な現実にカメラが向き合う。



    【監督のことば】このところ私は、ドキュメンタリーで一番よく綴られるある言葉について考えている。“問題”という言葉だ。映画製作とは、問題を見い出すことであり、自らトラブルに飛び込んでいくこととも言える。

     よく聞く流行り言葉のひとつに、“グローバリゼーション”という単語がある。私の映画のなかには出てこない言葉だが、それが実のところ何を意味するにせよ、そこには関係の歴史が表れている。60億人かそこらの、私たちの関係だ。つまり問題は、私たちがいかに関わり合い、いかに生きて、いかにこの地球でともに存続していくかということだ。

     そして、古くからのひとつの問い――世界にとって一番いい社会政治構造とは何か――これには、すでに答えが出ているようだが、勝ち残ったのは資本主義だ。ダーウィン風に言えば、“よいシステム”が勝ち、自然に生き残っていくのだ。

     私はこの映画で、ある魚が勝者となった奇妙ないきさつと、この最高の“適応者”である生物をめぐるにわかな景気を、ひとつの物語に転換させようと試みた。それは皮肉めいていて恐ろしい、いわゆる新世界秩序の寓話だ。他の場所でも、同じ映画は作れただろう。例えばシエラレオネなら、魚をダイアモンドにすればいい。ホンジュラスならバナナ。リビア、ナイジェリア、アンゴラなら原油だ。

     私たちは今、ほとんど持続する望みのない、破滅的といっていい世界経済システムを目撃しながらも、それに関与しようとしている。皮肉なことに、このシステムのなかにいる人々のほとんどは、善良な顔をした悪意のない人たちだ。それは私であり、あなたでもある。“ただ自分の仕事をしているだけ”という人たちなのだ。

     いわばナパームを載せた爆撃機の操縦士のようなものだ。事実に目をつぶりたがる人もいれば、生き残りたいばかりに戦闘に加わる人もいる。私はこのドキュメンタリーで、できる限り人々の個人的な顔を撮るよう努めた。セルゲイ、ディモンド、ラファエル、エリザは実在の人物であり、このシステムの複雑さと、私にとっては現実の不可解さを象徴している。私は彼らを、我々人類の問題を映す鏡だと見ている。グローバル化された人類のジレンマという問題を。


    - フーベルト・ザウパー

    オーストリア・アルプス、チロルの村に生まれる。イギリス、イタリア、アメリカに住み、この10年はフランスに在住。ウィーンの舞台芸術大学とパリ第8大学で映画監督を学び、現在はヨーロッパとアメリカで映画を教えている。脚本・監督を手がけた前2作品は、12の国際映画賞を受賞した。また俳優として短編数本のほか、『In the Circle of the Iris』(ピーター・パザック監督、フィリップ・レオタール出演)と『Blue Distance』(ピーター・シュレイナー監督)に出演。作品歴に、『On the Road with Emil』(1993)、『So I Sleepwalk in Broad Daylight』(1994)、『Lomographer's Moscow』(1995)、『Kisangani Diary』(1998、シネマ・デュ・レール映画祭グランプリをはじめ多数の賞を受賞)、『Along with Our Stories』(2000)などがある。本作は世界中で16もの賞を受賞している。