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YIDFF 2017 やまがたと映画
世界一と言われた映画館 〜酒田グリーン・ハウス証言集〜
佐藤広一 監督インタビュー

グリーン・ハウスの灯は、みんなの心の中に


Q: 今まで話題にしにくかった題材を取りあげられたわけですが、証言者の撮影は順調に進みましたか?

SK: グリーン・ハウスをテーマとしてちゃんと取り上げた映像は、今までありませんでした。酒田大火の原因であったから、誰も踏み込めなかったというのもあると思います。あれから41年経ったとはいえ、もう少し抵抗があるかと思いましたが、実際に取材してみると意外にも皆さんウェルカムでした。当初は20分から30分程度の作品になる予定でしたが、「こういう人もいるよ」「こういう話や、こういう資料もあるよ」と逆に皆さんから提案されて、最終的には67分まで伸びました。今回、撮影を進めていくうちに感じたのが、ひょっとすると見えない力によって作らされているのではないか、ということです。うまい具合に救いの手が差し伸べられたり、お忙しい出演者との撮影スケジュールが合ったりと、偶然の重なりで撮影を順調に進めることができました。

Q: 監督はグリーン・ハウスをリアルタイムでは知らない世代ですが、証言者の姿を目の当たりにして、グリーン・ハウスと当時の酒田市民の関係をどのように感じましたか?

SK: 酒田市民にとって、グリーン・ハウスは特別な存在であり、憧れの存在でした。酒田大火で焼失させてしまったということで、複雑な気持ちの方々もおられると思いますが、それだけじゃないよと思っている方々もいらっしゃる。初代支配人の佐藤久一さんが作り上げた、相当に手の込んだ豪華な映画館が、昭和の港町酒田にあったのです。現在、どの映画館も人気の作品を上映して、ラインナップもだいたい同じであるシネコンの時代で、たとえ客が入らないとしても、魅力的なラインナップでやろうという心意気で上映している映画館は減ってきています。なので、このような志を持った映画館がかつてあったんだよということを知ってほしいと思います。

Q: 佐藤久一さんの存在も大きかったのではないでしょうか?

SK: 久一さんの活動の内容を見ていると、「文化に貴賎なし」ということなのかなと感じます。首都圏も酒田も、そんなに違いはない文化を作りたかったのだと思います。そういう意味では理想の地方都市を作りたかったんだろうと。酒田には港があるので、文化交流があり商人の街でもあり、粋な文化があります。大火があっても逞しく成長を遂げてきた骨太さが酒田の人にあると感じます。それはこれからも続いていくのだと思います。グリーン・ハウスの灯は、実際にはなくても、みんなの心の中に根付いていてほしい、おこがましいことかもしれませんが文化は残っていってほしいと思いますよね。今、酒田には常設の映画館がありません。グリーン・ハウスの心意気を受け継いだような映画館が、今後できれば、映画文化がさらに発展していくのではないかと思います。

Q: もし、今も酒田にグリーン・ハウスがあったら、ご自身の作品を上映して欲しいと思いますか?

SK: それはもちろんです。まずは、この作品を上映してもらいたいです。「ムーンライト・セレナーデ」が流れて、その後に上映するというのは理想的な鑑賞環境です。作り手として、その環境に耐えうるような作品が作れるのかというのはあります。今は上映環境がだいたい同じなので、この映画館で上映してほしいという思いで作品を作ってる人は少ないと思います。もし、グリーン・ハウスがあったら、「ぜひグリーン・ハウスで上映してほしい」という作り手も出てくるかもしれません。

(構成:佐藤朋子)

インタビュアー:佐藤朋子、薩佐貴博
写真撮影:名畑文草/ビデオ撮影:野村征宏/2017-10-01 山形にて