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YIDFF 2015 アジア千波万波
ディスタンス
岡本まな 監督インタビュー

親子、ふたたび


Q: 監督が抱える家族の事情は、これまでずっとあったものだと思いますが、なぜ今、映画を撮ったのでしょうか?

OM: 一生このままではないかと思っていた父と兄の関係が、一歩前進したように感じたからです。これは私にとって、とても心動かされる出来事でした。私自身は、長いこと父に対する感情を抑えてきたので、このことによって、今まで眠っていたものが呼びおこされたような気がしたのです。

 兄は父への葛藤を抱えながら必死に生きている人だったので、それを見ている私も辛さを感じていた時期がありました。作中で、兄は過去の心境を赤裸々に語ってくれていましたが、あのようなことを、本人の口から聞いたのは初めてのことでした。今の奥さんと出会ったことで愛というものを感じて、気の持ちように大きな変化があったのだと思います。そして自分の人生を、ある種客観的に、ひとりの人間の生き方として人に見てもらっても良いのではないか、と考えていたようです。

 また、子どもの頃の私の気持ちを汲み取ってくれていたのかもしれません。

 自分の家族を撮るということは、ごく個人的なフィルムになる恐れがありましたが、私の家族は観ている人に、何か伝えられるものがあるのではないかと思っていました。

Q: ご家族のユーモア溢れる楽しいシーンと、シリアスなシーンのバランスがとても良いと思いました。音楽の使い方や、踊るシーンが多いことも印象的でしたが、どのような経緯でああいった構成になったのでしょうか?

OM: 使用する音楽のこだわりは強くありました。ランタンパレードさんの『名言を言おうとしない』を初めて聴いたとき、自分の家族に対してずっと抱いてきた感情とのつながりを感じたのです。映画を作るきっかけとなったもののひとつで、この曲を最後に使うことは決めていました。

 また、基本的には愉快な性格の家族なので、踊ることや歌うことが好きなのです。母がなぜ、リビングで踊ったのか分かりませんでしたが、気持ち良さそうにしているのを見て、すぐにカメラを廻しました。家族の行動はどれも予想できないものでしたが、踊るシーンを入れたいというのは核にありましたね。

Q: 監督自身がたびたび登場しますが、何か意図があったのでしょうか?

OM: 自分が映ることは気が進まなかったのですが、どのような人物が撮影しているのかを知ってもらいたかったのです。また、私は自分のなかに孤独感のようなものをずっと持っていたので、ひとりで映るシーンでは、自分のそういった面と向き合っていることを表現しました。雪のなかで踊るシーンは、吹雪いている日に撮影したので大変でしたが、より良いシーンになったと思っています。

Q: 本作は初監督作品ですが、今後も映画を撮っていかれるのでしょうか?

OM: はい。次は、非現実的な内容を考えています。私は、現実もフィクションとつながるところがあり、その逆もまた然りだと思っています。人は日常のなかで演技をしてしまうこともあるし、作られたものに真実味を感じたりもしますよね。なので、それらの感覚が混在している作品を撮ってみたいです。

(採録・構成:石沢佳奈)

インタビュアー:石沢佳奈、高橋仁菜
写真撮影:宮田真理子/ビデオ撮影:原島愛子/2015-10-09