小田香 監督インタビュー
地下で時間を失う感覚を表現したかった
Q: 今回、なぜ炭坑夫たちの姿を映画にしようと思ったのですか?
OK: きっかけは学校の課題です。私は今、サラエボのフィルム・ファクトリーで博士課程にいます。この学校の創設者はタル・ベーラ監督なのですが、彼から、カフカの短編小説を脚色して映画にしなさいと課題を出されたのです。そのカフカの小説は、石炭に関する物語でした。それで私は炭鉱会社へ映画のリサーチに行きました。リサーチをしながら、炭坑の空間自体が面白いと感じました。それで学校の課題はやめて、『鉱』の撮影に入ったのです。
Q: 地上から地下に下りる長いカットがとても印象的です。あそこはどれくらいの距離なのでしょうか?
OK: 地下の採掘場に入る道は、すごく長くて300メートルくらいです。20分程度かかります。
Q: 炭坑での撮影は何回行なったのでしょうか?
OK: 去年の10月から今年の3月にかけて10回くらいです。1日につき大体4時間、炭坑に入らせてもらって、撮影しました。
Q: 撮影は1人で行なったのですか?
OK: 私1人です。ただ私は炭坑夫としてのトレーニングを受けていないので、1人では炭坑に入れませんでした。毎回、炭鉱会社のマネージャーがついてきました。私は彼の案内で、炭坑内を撮っていきました。
Q: 撮影は炭坑内での作業の流れをまず把握してから始めたのでしょうか?
OK: いいえ。現場でいきなり炭坑夫たちのリアクションを撮っていきました。私がやった唯一のことは、炭坑夫たちと、彼らがつけているヘッドランプの動きに対応することでした。カメラは、ほとんど三脚を据えて撮っています。現場で私は、カメラをどこに置くか、フォーカスをどこに合わせるか、ということぐらいしか考えていませんでした。ただ編集のときにはいろいろ考えました。
Q: 炭坑から外に出てきたときの雪の明るさは、炭坑内の暗さとの対比を考えた編集なのでしょうか?
OK: そうです。あと、地下にいると日光がないし、ずっと騒音の中にさらされているので、時間の感覚を失うのです。何時間穴の中にいるのか、よくわからなくなってくる。その地下で時間を失う感覚を表現したかったのです。どうすればそうできるかを考えていました。
Q: この『鉱』は、初の長編作品ですね。監督の第一作はセルフ・ドキュメンタリーとのことですが、どのような作品なのですか?
OK: 第一作の『ノイズが言うには』は私自身と家族を撮った作品です。私はゲイで、私と家族に関する問題にアプローチしました。私たち家族の問題は、解決はできないけど、カメラを使えば何かできるのではないかと思い、映画に取り上げたのです。
その時、私は25歳でした。25年間の人生で、自分のセクシャリティに関する問題が、私にとって一番大きな葛藤でした。だから映画をつくり終えたあと、もう撮ることがなくなったように感じました。
Q: 壁にぶつかったということでしょうか?
OK: そうです。でも、映画づくりは、もっと続けたかった。『ノイズが言うには』のあとに、いくつか短編を撮ったのですが、完全に迷っていました。今も迷っています。
Q: 今回の『鉱』にはフィルム・ファクトリーでの学びが影響していると思いますか?
OK: それはもちろんあると思います。タル・ベーラ監督は、きちんと人間と向き合って撮りなさい、とよく言っていますね。あと正直であれ、ということです。
(採録・構成:山根裕之)
インタビュアー:山根裕之、楠瀬かおり
写真撮影:平井萌菜/ビデオ撮影:福島奈々/2015-10-10