杜海濱(ドゥ・ハイビン) 監督インタビュー
愛国心という違和
Q: 反日を叫ぶ熱狂的な18歳、シャオ・チャオさんとの出会いに運命的なものを感じられたということですが、監督は彼とどのように出会われたのでしょうか?
DH: チャオと出会ったのは2009年の国慶節の日です。その年は建国60周年もかねており、街中がお祭り状態でした。しかし、私はどこかその様子に違和感を覚えており、周りの人たちと喜べなかったのです。そんな時に愛国旗を街中で振り回している若者、チャオに出会いました。その時、私は彼を撮影していくことによって、この違和感を理解することができるような気がしました。具体的に言いますと、1つは90年代以降に生まれた人たちについてです。そして、もう1つは、愛国や国家のような、みんな言葉にはするけれど、理解できていない曖昧なものを理解できるような気がしました。もちろん、チャオが大多数の中国人の代表ではないと思いますが、中国に暮らす人の内面の世界を表しているような気がしました。
Q: 撮影を通して、チャオさんの自分自身に対する考え方が、どんどん変化していると思いましたが、その変化に対してどう思いましたか?
DH: チャオの世代に限ったことではないですが、私たち人間は追求してきた理想が挫折し、その信仰がなくなってしまったときに、自分自身を見つめ直すと思います。チャオもまた、多くの経験を重ね自分自身が変化していくにつれて、政治など様々な物事に対して批判的になると同時に、自分自身への信仰を批判するようになりました。私は、トンネルの出口にカメラを置いて撮り続けているように、彼の政治的な意見などに干渉しないできたのですが、彼の変化に立ち会うたびに緊張のようなものを覚えました。どきりとさせられました。それはかつて、私もまたチャオのように変化していたからだと思います。
Q: 祖父の家が壊されたシーンで、いつもなら声をあげて叫び続けるはずのチャオが、黙ってその様子を自分のカメラに収め続けるシーンが印象的でしたが?
DH: 家を壊された後、彼にインタビューに行ったら、彼はスキンヘッドになっていました。その時彼は、愛国心に対する考え方が変化していたのです。 愛国心というものは、ものすごく茫漠としたもので、時代によっても変わっており、つまり中身のないことだと彼が理解したのです。彼の若さでそのことを理解したことに、私は驚いてしまいました。
Q: 政治的な内容だけでなく、少しユーモアのあるシーンも多く大変見やすかったです。編集の際にどのようなことを意識されたのでしょうか?
DH: 私自身にとって、作品が面白く、理解しやすいかということをいつも意識しています。チャオのお茶目なシーンや、ユーモアを含んだ表現が多く入っているのもそのためです。そのユーモアを通して、物語の本質みたいなものを感じてもらいたいとも思っています。
また、作品を章立てにし、テンポよく編集できるように意識しています。生命もリズムを刻んでいるので、作品にもリズムを刻んでいきたいのです。
(採録・構成:岩田康平)
インタビュアー:岩田康平、川島翔一朗/通訳:秋山珠子
写真撮影:石沢佳奈/ビデオ撮影:木室志穂/2015-10-12