ハビエル・コルクエラ 監督インタビュー
音楽を通して生命を描く
Q: この作品を見て心惹かれたのは、やはり音楽の美しさでした。自然からインスピレーションを受けて即興で音楽が生まれる様子や、先駆者である偉大な音楽家から影響を受けて音楽が熟成されていく過程も記録されていました。音楽をテーマにペルーを描こうと思った理由は何ですか?
JC: 私の故郷であるペルーを描きたいと考えたときに、その最良な方法は歌だと思いました。ペルー人というのは歌が好きで、私自身もよく歌うのです。ペルーを3つの大きな地域に分けて、詩と音楽を通じて表現するというのが私のアイディアです。
Q: カルメンの祭りの場面で、人々がアマドールの墓に向かって歌い踊りながら歩くシーンが印象的でした。彼らの死生観を教えていただけますか?
JC: 死後も命は続くという考えが根底にあります。葬式には踊りがつきもので、それが死後もその土地や人々と繋がる方法だと彼らは考えています。生命の喜びを表現して踊るということは、もっと生きるということなのです。
Q: ハサミの踊り手が洗礼を受けている場面がありました。ハサミが楽器だということに驚いたのですが、どうしてハサミを祝福していたのですか?
JC: アンデスの世界では、音楽は非常に神秘的なものと考えられています。楽器は神聖なものですから、ハサミだけでなく、バイオリンも祝福をします。ハサミの踊りは、まるで闘牛士のように体力を使うため、伝統的には男性が務めます。ですから、ハサミの踊り手として女性が洗礼を受けるのは大変珍しいのです。彼女の師匠は、本当に尊敬されているハサミの踊りの巨匠です。そんな彼が、彼女が素晴らしい踊り手になるよう、願いを込めて祝福したことは、ある意味で伝統を破ったことになります。彼は新しい時代を切り拓こうとしたのです。
Q: 映画の中では、川や歌詞、生活の中でも様々な形で水が表れます。監督は水をどのようなものと捉えていますか?
JC: 水は生命だと思っています。この映画は水についての映画であるとともに、命はどういうものかを描く意図もありました。そして、アンデスの伝統でも、アマゾンの伝統でも、水というのは女性です。ですから、映画の中では私は女性に歌ってほしかった。声で水を表現したいと考えました。女性は歌を通じて生きる喜びや悲しみ、様々なことを語っています。
Q: この作品では音が重要だったと思いますが、録音はどのようにされたのですか?
JC: 全部、音はダイレクトです。スタジオで録ったものはありません。その場で起こっている本当の音を使いました。何度も繰り返し撮影し、その一部を使っています。例外は、アマソナスの女性の歌。彼女は即興で歌を歌うため、同じ曲を聞くことができないのです。ですから、彼女の歌に関しては一度だけしか撮影していません。
Q: 監督はペルーを「見えない国」と表現されています。なぜそういう表現をしたのでしょうか?
JC: ペルーは共和国になって200年の歴史のある国ですが、本来はたくさんの国があるにもかかわらず、公式には国は1つということになっています。ペルーを代表するとみなされているのは、主に海岸沿いの文化です。しかし、ペルーには他にも言語や生活観だけでなく、音楽や詩も違う文化がたくさん存在しています。たとえば、ケチュア語を話す人は100万人いますが、ケチュア語での教育や、メディアでのコミュニケーションは行われていません。他の言葉も同じ状況です。しかし、アイデンティティが強いのでいまだに存在し続けています。映画では、この見えづらい部分も描きたいと思い、制作しました。
(採録・構成:宇野由希子)
インタビュアー:宇野由希子、狩野萌/通訳:星野弥生
写真撮影:石沢佳奈/ビデオ撮影:原島愛子/2015-10-13