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YIDFF 2013 アジア千波万波
トランスジェンダーつれづれ
ションコジト・ビッシャス 監督インタビュー

“普通”と“特殊”の壁をこえて


Q: 劇中に登場するトランスジェンダーの人びとの、お互いを支え合い困難にめげずに立ち向かう力強さ、ありのままの美しさに、私は心を打たれました。この映画の主人公、チランジトやブバイたちの集まるNGOは、インド国内ではどのような存在なのでしょうか?

SB: インドを含む東南アジアの国々で、HIV対策キャンペーンが始まったとき、政府や海外の団体から支援金が入るようになりました。これらのNGOは、HIV対策キャンペーンや、LGBTの存在についての宣伝活動をしています。

 インドでは、トランスジェンダーの人びとはたいていヒジュラーのコミュニティに行き、そこに属します。ヒジュラーは主に去勢手術を受けた男性で、独自の生計手段を持っています。彼らは、子どもが生まれた家に行き、子どもを祝福し、金銭をもらうのです。10年から15年ほど前まで、それ以外に、トランスジェンダーの人びとの生きる道はありませんでした。さもなければ社会の一員として、本当の自分を隠しながら生きるしかなかったのです。ですが、今はこうしたNGOがあるおかげで、少なくとも、家に留まり、NGOのオフィスで働き、自活できる機会が与えられています。これは、彼らが社会の中で生きていくための、素晴らしいオプションだと私は思います。

Q: 監督第一作目に、トランスジェンダーにまつわる社会的な問題を撮ろうと思ったのはなぜですか? また、この映画の中で、人びとは、チランジトやブバイたちに対して突き刺すような視線を送っていますが、インドの「普通の」人たちは、トランスジェンダーの人たちをどのように受け入れているのでしょうか? 彼らをどのように扱い、コミュニケーションをとっているのでしょうか?

SB: 正直に言って、私たち「普通の」人びとは、トランスジェンダーの人たちを決して受け入れることはありません。映画の中でチランジトが湖畔に向かうシーンがあるのですが、その撮影は友人の家の屋根に上って行ないました。この友人は私に、「そもそも、なんで彼らを撮影するんだ?」と聞き、さらに、「あいつらは甘やかされた子どもみたいなものだから、殴るか蹴るかすればまともになるだろう」と言ったのです。これが、「普通でない」トランスジェンダーの人たちに対して人びとが持っている考えなのです。私の映画作りのポイントはここにあります。私自身はLGBTコミュニティに属してはいませんが、この立場からこそ、LGBTの枠を超えたすべての観客に、「トランスジェンダーであることは、まったく普通の現象なのだ」と言いたかったのです。

 だから私は多くの人にこの映画を見てもらいたい。コルカタでこの映画を2回上映しましたが、2回目の上映のあと、私の友人や親戚を含む多くの人が私のところにやってきて、「今後は、少しあの人たちを別の見方で見てみたい」「少し寛容な目で見てみるよ」と言ってくれました。映画監督として、これこそが私の望んでいたことです。ある問題に対する人びとの見方を変え、彼らにほんの少しでも理解し共感してもらうことが、私の映画作りの目的なのです。

(採録・構成:小滝侑希恵)

インタビュアー:小滝侑希恵、田中峰正/通訳:齋藤新子
写真撮影:加藤法子/ビデオ撮影:森川未来/2013-10-13