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YIDFF 2013 インターナショナル・コンペティション
祖国か死か
ヴィタリー・マンスキー 監督インタビュー

灰色の太陽


Q: 映画の舞台となっているキューバは、ロシアで育ったヴィタリー・マンスキー監督の目にどう映りましたか?

VM: 撮影しながら、キューバの人たちの中に力強いエネルギーが遺伝的にあると感じました。キューバはロシアと比べると常夏のように暖かい気候です。そのため、外で過ごす時間が長くなり、ひとりひとりが社会と関わる時間も長くなります。その一方、寒い気候のもとでは人々は部屋にこもりがちになり、自分の殻に閉じこもりがちになってしまいます。同じ社会主義政権の下でも、気候が違うことでそこに住む人々の性格も違ってくるのだと思います。人々の自由が奪われている状況が、キューバの人々のエネルギッシュな性格によってより一層ドラマチックに見えてくるのではないでしょうか。もうひとつ、私が14〜15歳のころには周りに革命前のことを知っている人はほとんどいませんでした。それに比べて50年前に革命が起こったキューバでは、革命前の暮らしや革命のことについて知っている人がまだ生きています。動物園に例えるなら、野生から捕まえてきた動物と、動物園で生まれた動物の違いのようなものがあると思います。

Q: 作品の序盤に、たくさんの遺体が墓から掘り起こされるシーンがありますが、なぜ彼らは墓から掘り起こされたのですか?

VM: 革命後のキューバはとても貧しく、新しい墓をつくるほどの予算がありません。死者が墓に入るには遺族がお金を支払うのですが、もちろん人々の生活も貧しいので、キューバでは基本的に1年分の料金しか払いません。なので、埋葬されてから1年経つとあのように掘り起こされ、木の箱に入れられ倉庫のようなところに保管されるのです。そこは墓地よりは安いのですが、やはりお金がかかるので数年経ったら遺骨は捨てられます。このことは私の想像を超えたことでした。もし、自分が自分の父親の遺骨を掘り起こさなければならないことを考えると、まるで悪夢のようです。映画の中に出てきた、街のみんなの業務を監視するおじさんも、この映画の撮影後に交通事故で亡くなり、もう既に墓から掘り起こされてしまっています。

Q: 女の子がセクシーなダンスをしているのも印象的でしたが?

VM: キューバでは多くの10代の女の子が売春をしています。それは服やカバンが欲しいからではなく、自分やその家族が生活をするためです。映画の中で登場した靴屋を営んでいる男性も、外国から来た女性観光客を相手に売春をしているから、あんな立派な家に住むことができるのです。国は「キューバは素晴らしい国である」という教育をしている一方で、10代の女の子が生活をしていくために売春をしている。その相反するものをひとりの人間の中で共存させることができるでしょうか。目を閉じて1分間ほど考えてみてください。

Q: 社会主義国であるキューバでは、この映画を上映するのはやはり難しいのでしょうか?

VM: はい、まず無理でしょうね。しかし、そう遠くない未来にこの映画がキューバで観られるようになるのではないかと思います。この映画が芸術的に優れているかいないかに関係なく、いまのキューバの実情を映しだしたということで非常に歴史的な意味を持った重要な作品になると私は確信しています。

(採録・構成:柴崎成未)

インタビュアー:柴崎成未、森川未来/通訳:岡林直子
写真撮影:野上貴/ビデオ撮影:宇野由希子/2013-10-12