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YIDFF 2011 やまがたと映画
僕らの未来
飯塚花笑 監督インタビュー

現実と前向きに向き合うために


Q: 性同一性障害である主人公が家族や学校というコミュニティの中で、孤独感や疎外感を感じながらも、どのように向き合っていくのかという心の葛藤が胸に迫りました。社会におけるセクシャル・マイノリティへの理解環境をどう思いますか?

IK: たしかに主人公の優(ゆう)は性同一性障害ですが、今回一番作品で描きたかったのは、トランスジェンダーが社会でどう受け入れられているかということではなく、誰もが一時期経験する受け入れられない現実、先に進めない状況とどう向き合って、一歩先に踏み出すのか。その一瞬を描きたかったのです。優が悩んでいることというのは、実は一般的な悩みにも共通していて、自分の社会的異質性や、社会で置かれているポジションをどう自分の中で折り合いをつけて、受け入れていくのか。それをテーマとして描きたかったのです。

Q: 登場人物の悠(はるか)のセリフで「普通なんて幻想だよ」という言葉が印象的です。

IK: 言葉どおり、普通なんてよく考えたらありえないことです。本人が普通だと思っていることでも、他人からみたらそれは普通じゃないと思われることはなにかしらあると思います。主人公の優は自分が普通だと思っている当たりまえに生きたい姿(男性像)があるのですが、それは周りから見れば普通ではないわけで、優に自分というものを確立し、生きていく方法を生みだして、探っていかなければならないということを、悠に言わせたかったのです。

Q: 作品中、悠のダンスシーンに彼女のおかれる状況と対比した開放感を感じました。このシーンの意図はなんでしょう?

IK: しがらみからの開放の象徴として入れました。踊っている役者にも開放をイメージして踊ってほしいとお願いしました。様々なことで悩んでいる人が、そのシーンを観て開放を感じてくれたら、この映画が誰かのためになっているのではと思えます。脚本の内容は制作中に二転三転しましたが、ダンスシーンは最初から入れようと考えていました。

Q: 長編の劇映画は今回初めての作品ですが、以前から劇映画を作りたいと思っていたのですか?

IK: 小さいころから劇映画を撮りたいと考えていました。小学校二年生の時に、宮崎駿監督の『もののけ姫』を観て、言葉にならない得体のしれない衝撃を受けました。自分もその作品のように、人に対して衝撃を与えたり、心揺さぶるような作品を作りたいと思いました。大学生になって、やっと映画を撮れる環境になり、制作をはじめました。

Q: タイトル『僕らの未来』の意図は?

IK: 作中にタイトルテロップが2回出てきます。作品の冒頭と、最後の方に優がカミングアウトをして、女子制服を着て学校に行くシーンに入れました。彼、彼女たちの未来はこれから始まる。これからが本当の彼らの人生なんだという意味合いを含めたかったのです。

Q: 映画を制作したことで監督自身変わったことは?

IK: 自分の作品を観てもらうということは、自分自身を観てもらっていることと同じようなものです。作品は良くも悪くも自分自身を投影しています。もともと自分のことを多く語ることはしないので、自分のことを知ってもらう前情報として作品を観てもらうのは気持ちが楽な気がします。どうしてもこの作品は作りたいと思っていました。まずは自分が悩んできて受け入れられなかったことを、作品にして表現する作業がしたかったのです。

(採録・構成:奥山心一朗)

インタビュアー:奥山心一朗、大石百音
写真撮影:真木千鶴/ビデオ撮影:柳澤あゆみ/2011-09-18 山形にて