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YIDFF 2011 アジア千波万波
アミン
シャヒーン・パルハミ 監督インタビュー

流浪の音楽の守人


Q: ガシュガイ族の伝統音楽に不思議な魅力を感じました。ガシュガイ族の伝統音楽をこの映画で取り上げようと思ったきっかけについて教えてください。

SP: 私は、もともと音楽が好きで、イラン・イラク戦争中、音楽を勉強したいと思いカナダに渡りました。そこで、カナダに住むイラン人が奏でる伝統音楽に興味を持ったのです。その音楽の原点を探す旅でイランへ渡ったとき、たまたま故郷で、ガシュガイ族の伝統音楽への情熱を持つ16歳のアミンに出会いました。ガシュガイ族は遊牧民族で、住む場所からの別れ、どこかに留まりたい気持ちをよく音楽で表現します。故郷の伝統音楽には愛着がありましたが、国外に住むイラン人の伝統音楽との共通点を感じたことで、また新しい視点からガシュガイの音楽に惹かれていきました。本作の制作は、キエフに住むアミンから突然電話をもらったのがきっかけです。アミンとの出会いから8年後のことでした。

Q: アミンの撮影はうまくいきましたか?

SP: アミンは、ガシュガイ族の中でとても人気のある音楽家です。映画の最後に流れるアミンの曲はガシュガイ人の携帯で着メロになるくらいです。アミンと歩けば人が寄って来ますし、アミンの取材に訪れた家は、取材スタッフを手厚くもてなそうとします。民族のヒーローであるアミンのためにできることをしたいという人々の思いを強く感じました。撮影が進んでいくにつれて、アミンは素の自分を出せるようになりましたが、当初は、アミンからヒーローとしてうまく演じなければという思いを感じました。アミンの自己紹介を取り直すシーンを敢えて入れたのは、アミンが演じようとしている部分を見せたかった意図もあります。取り直しのシーンを見たアミンは、「自分がどれだけ完璧主義者かが伝わっていいね」と満足していました。

Q: 監督自身は本作に満足しましたか?

SP: 全体的に、まあ悪くないと思います。実は、私が撮りたい映画は、もっと抽象的で芸術的なものです。しかし、本作は芸術家より人々に広く受け入れられる作品にしたいと思いました。もちろん自分のスタイルもある程度入れましたが。ドキュメンタリー映画は、そもそも話の筋があって、筋書き通りに作るものではありません。流れのまま撮り進め、最終的にどうなるかは分からないのです。ですから、ドキュメンタリーの監督にとって、100%自分が作りたかったものがこれだと言い切るのは難しいことだと思います。

Q: 監督のスタイルとは?

SP: ドキュメンタリーは、客観的な事実を映していると勘違いされることもあります。しかし、カメラで撮ることは、カメラに映らないものを無視することでもあるわけで、映像は極めて主観的なものなのです。それを伝えるために、フィクション的な場面で映画が始まるようにしました。この映画が一種のフィクションで、ありのままの事実を切り取っているものではないことを示したかったからです。また、芸術的な趣向として、部屋でアミンが語るシーンをモノクロにしました。これは、観客が、色など余計なことに気を取られず、アミンだけに集中できる演出にもなったと思います。

Q: 遊牧民が突然、携帯電話に出るシーンが印象的でした。

SP: 実は、私も初めてその場面に遭遇したときは驚きました。羊を追いながら、携帯電話でおしゃべりをしていたり、遊牧民のテントで衛星放送テレビからマイケル・ジャクソンの曲が流れていたり。テクノロジーはグローバル規模で広がっているということも見せたいと思いました。

(採録・構成:新垣真輝)

インタビュアー:新垣真輝、小清水恵美/通訳:高田フルーグ
写真撮影:勝又枝理香/ビデオ撮影:花岡梓/2011-10-09