ヴァディム・イェンドレイコ 監督インタビュー
三つ編みを結うように、映画をつくる
Q: この映画を撮ることになったのは、ドフトエスキーに関連した映画を作りたいと思っていたからだとお聞きしましたが?
VJ: はい、私は最初ドフトエスキーに関する劇映画を作ろうとしていました。そして、ドフトエスキーのことなら彼女より詳しい人はいないと、この映画の主人公である女性を紹介してもらったのです。そして翻訳家である彼女と何回か会い、とても魅力的な人だということがわかりました。しだいにドフトエスキーの劇映画ではなく、彼女自身のドキュメンタリー映画を撮りたいと思いはじめ、この映画を制作したのです。
Q: どのような映画になるか、彼女と出会った時想像できましたか?
VJ: 彼女に会い、とても魅力的な人だと感じましたが、なぜ私が彼女にそれほど引きつけられるのかは分かりませんでした。私はドキュメンタリーは旅と同じであると考えています。リュックを背負い旅に出ますが、予期せぬ川があったり、沼に足をとられたりもしましたよ。この映画を作る前は疑問が沢山あり、その答えを旅の中で探していきたいと常に思っていました。もちろん脚本は書きましたが、それは手錠ではありません。映画を作り終えたあとだからわかったことですが、この映画は私と彼女の旅の証人になってくれたと感じています。
Q: この映画にはとても多くのテーマが込められているように思えましたが、監督自身はどう考え映画を作ったのですか?
VJ: この映画には3つの要素がありました。まず1つ目は、彼女は、とても知的な女性であり、ドフトエスキーや文学の世界を教えてくれることです。2つ目は、子どもがいたり、孫がいたり、料理や洗濯をしたりする私生活があり、翻訳家だけではなく主婦としての立場もあるということ。3つ目は、ヨーロッパの20世紀の歴史を彼女は語る人間であるということです。ヨーロッパは長い期間戦争をしていましたが、その中に彼女は生きていました。非常に豊かな人生を送ってきた女性でもあるのです。そんな彼女の伝記のような映画を作りたいと思っていました。これらひとつひとつが映画になり得るテーマだと思います。しかし私が重要だと思っていたのは、このひとつひとつが映画のテーマになり得るほどの大きな問題を、女性が髪を三つ編みにするように、すべて編み込んでひとつの映画にすることだったのです。
Q: 文学や戦争というテーマもありながら、とてもあたたかな映画だったように思えます。この映画を作り終えて、どう感じますか?
VJ: そうですね、この映画はなんだかほっとする映画だと思いませんか。我々はとても忙しい時代に生まれてきていると思います。私も、夜になればメールの返信を書かなければならないし、昼間は携帯にどんどん電話がかかってきますしね。しかし、彼女の家に入って行くと、そういったものは何ひとつないのです。実際に、彼女に会いに行くとほっとするのです。皆さんも自分のおばあさんやおじいさんの家にいくとほっとするような感覚はあるでしょう。15年、もしかしたらもっと昔はあのような暮らしをしていたかもしれませんが、今はあのようなあたたかな環境はなくなっています。この感覚を観客の皆さんに共感してもらえた事は本当にうれしかったです。この映画はリンゴが熟して木からポトンと落ちるようにしてできたもので、今の時代に必要なものだと思っています。
(採録・構成:飯田有佳子)
インタビュアー:飯田有佳子、仁平晴香/通訳:平野加奈江
写真撮影:渡辺一孝/ビデオ撮影:慶野優太郎/2011-10-09