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YIDFF 2009 ニュー・ドックス・ジャパン
田中さんはラジオ体操をしない
マリー・デロフスキー 監督インタビュー

石の上に落ちる水滴のように


Q: 田中さんの闘い方について、率直に言って、どうお感じになりましたか?

MD: とても個性的で、型破りでおもしろいと思いました。長期間にわたる小さな行動が、一定の効果を生むことを示す好例だと思います。石の上に水滴が落ちるのに似ていますね。彼の粘り強さには敬意を表します。私なら、ああいうやり方はしませんが、彼は闘いを自分の人生に組み込んだのです。とても幸せな人だと思います。

Q: 撮影はすべて、通訳なしで行われたのですか?

MD: そうです。映画の作り方について誰からも指図されたくなかったので、資金集めはしませんでした。だからわずかなお金しかなく、通訳を雇うことができなかったのです。なので田中さんをインタビューするに当たって、ある方法を考案しました。私が英語で彼に質問し、彼にはまず日本語で、その後、英語で答えてもらったのです。どちらの答えを使うかは、編集の時に選びました。おもしろいことに、英語での答えを使うほうがよかった時があったんです。日本語での答えは、以前にも同じ話をしているため、とても機械的に聞こえることがありました。でも英語で答える時は、苦労して言葉を探しますからね。こういうやり方をお勧めはしませんが、通訳がいなかったため障壁がなかったんです。何とかして意思疎通するしかなかったので、彼と特別な関係、ユーモラスな関係を築くことができました。

Q: 撮影中、田中さんと衝突したことは?

MD: 衝突ではありませんが、田中さんは仕切りたがる人なので大変でした。映画制作については何も知らないのに、知っていると思い込んでいたんです。だから彼に対して、「田中さん、監督は私ですよ。私が決めるんです。あなたは映画について何も知らないじゃありませんか」と、強い態度に出なければなりませんでした。あと、自分でカメラを持って撮影するのは初めてだったため、技術的なミスをすることがあったんです。ですから彼は当初、私がアマチュアだと思っていたのかもしれません。でも私が彼に、「いいえ、ちゃんと分かっています。私の技術を信じてください」と言うと、笑って受け入れてくれました。

Q: 田中さんを解雇した沖電気については、どう思いますか?

MD: 沖電気に焦点を当てる気はまったくありませんでした。たまたま沖電気だったというだけですから。もちろん田中さんは沖電気に的を絞っていますが、私は沖電気を糾弾する映画は作りたくなかった。そこに興味があったのではなく、長い間、同じ場所で同じことをやり続けている男性に興味があったのです。

Q: オーストラリア人の観客は、この映画を見てどう反応しましたか?

MD: とてもおもしろい反応でした。映画の出だしでは、田中さんのことを少し変で、この人は大丈夫なのかと思うようです。けれど映画が進むにつれて彼のことを理解し、大好きになっていくんですよ。大半のオーストラリア人は「権威」が嫌いなので、田中さんを好きになるのだと思います。それに、通常は見られない日本の一面、ステレオタイプではない日本を見られるからおもしろいとも言ってくれました。(田中さんが座り込みをする)29日に東京にいることがあったら、彼に会いに行くと言った人たちもいます。

(採録・構成:村上由美子)

インタビュアー:村上由美子、保住真紀/通訳:後藤太郎
写真撮影:安彦晴江/ビデオ撮影:森藤里子/2009-10-13