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YIDFF 2009 インターナショナル・コンペティション
ナオキ
ショーン・マカリスター 監督インタビュー

ナオキは日本のヒーローです


Q: 主人公であるナオキの元を1回離れたと聞きましたが、彼のところに戻った、大きな理由というのは何ですか?

SM: テーマは東京を撮るということだったので、ナオキを選ぶとテーマから離れてしまいます。ナオキを1年間撮影していましたが、その当時私は、日本の中心としての東京に憧れを抱いていました。ナオキから離れて、東京の様々な場所を1年程撮影し、そこである人物と出会いました。彼を3カ月ぐらい撮っていましたけど、いい関係を築けませんでした。決定的になったのは、ふたりで温泉に行った時でした。温泉に入っている彼を撮ろうとしたら、彼は怒って帰ってしまいました。その時助けに来てくれたのがナオキで、ナオキはカメラを手に取り、私を撮影し始めました。そこからこの映画が始まったのです。

Q: それでは、監督にとってナオキはヒーローですね。

SM: ナオキは日本のヒーローです。私のヒーローではなく、あなたたちのヒーローです。日本の観客が自分たちをナオキに重ね合わせて、映画を理解してくれるか心配だったのですが、彼らは映画が進むにつれてナオキに共感し、映画が両者の間にある溝を埋めました。ナオキはワーキングプアのために立ち上がったのです。

Q: 映画の中で、ナオキの恋人であるヨシエは、化粧を取った素顔や無防備な寝顔を出します。彼女はこの映画について、どのような感想を持っていたのでしょうか?

SM: 最初にナオキを撮りはじめ、再びナオキを映画の題材として選ぶ決心をするまで2年間を費やしました。その後の撮影には、4カ月から6カ月かかっています。最初はナオキが映画について理解してくれましたが、だんだんヨシエも理解を示してくれました。その時にどのような映画にしていこうかということを話し合いました。

 公開する時、ヨシエはとても緊張していて、山形にも恥ずかしくて来られないと言っていましたが、映画の反響が次々に届くたびに、勇気づけられ力を与えられたと、今では一番喜んでいますよ。

Q: 郵便局のシーンで、まるで共産主義だと述べていましたが、特にどういったところでそう思いましたか?

SM: イギリスの立場から見ると、日本は非常に効率が悪いです。仕事をするには、細かいことをきっちりやらなきゃいけないのはわかりますが、大勢でひとつの簡単な仕事を振り分けていたりします。それは、全員で豊かになる方法かもしれないので、一概に悪いとは言えませんが。会社におけるヒエラルキーのせいで、一番下の人が上の人に質問をし、上の人がさらに上に質問し、という繰り返しが共産主義的ではないかと考えています。もっと、すべてを自由に考えることができたら、いいのではないでしょうか。

Q: 監督が、もし日本で仕事をしなくてはいけなくなったら、どのような仕事につきますか?

SM: 多分ホームレスでしょう。もともと「東京モダン」のテーマは、日本の会社でサラリーマンになって、映画を撮ってきてくださいということでした。ですが、1時間も働くうちに「窓から飛び降りてしまいたい」という欲求を、強く感じるようになりました。ナオキも映画の中で言っているけれども、「これが豊かということなのか?」と考えました。これだったら、アフリカのほうが断然豊かです。アフリカのジャングルで暮らしたほうが、ずっといいと思いました。

Q: 次の作品はもう撮っているのですか?

SM: 今シリアで撮影しています。楽しみにしていてください。

(採録・構成:高崎郁子)

インタビュアー:高崎郁子、太愉・山之内・ヘイワード/通訳:太愉・山之内・ヘイワード
写真撮影:鈴木大樹/ビデオ撮影:蕭淑憶(シャオ・シューイー)/2009-10-09