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YIDFF 2005 アジア千波万波
陳炉(チェンルー)
林鑫(リン・シン) 監督インタビュー

人は土から生まれ、土に還る


Q: 画家である監督が、この街を「映画」で表現したのはなぜですか?

LX: 絵を描く以前は詩を書いていました。両親の死によって、命のはかなさを「一輪の花のようだ」と感じ、表現活動に取り組んできました。以後、「すべての生命は土から生まれ、故に平等である」という境地に達し、「原子」をイメージした抽象的な絵画を描き続けています。映画の中でも土の映像は、つまりは生存概念そのもので、私は自分の理念に基づいて表現活動をしています。陳炉という街に出会ったことは、私に「今やらなければ!」という抑えられない感情をもたらしました。中国は文化大革命以降、昔ながらの文化を失いつつあり、伝統的な街の姿も消えかけています。これは危機的状況です。私はその事実に、初めてカメラを手にしました。まずは、写真を山のように撮り、そして結果的にこの映画が完成したのです。

Q: どんな絵を描かれるのか興味があります。

LX: 私の作品の多くは、人間の一部を抽象化していくつも連続させているものです。手、足、目、胸……体全体が原子のパーツでできているということを表現しています。画材はすべて中国産の物を使っています。紙は手漉きで、絵具は顔料です。以前は黄色を多く使っていましたが、毒性があり目を患ってしまったことと、作風の変化によって、現在は茶色や黒を用いた作品が多いです。制作は“ひらめき”と“勢い”であるため、何日も徹夜して仕上げます。

Q: 今回の作品と似ている「絵作り」だと感じます。

LX: 作品冒頭の乾燥した土は、まさにその通りでしょう。グレーの大地がひび割れて黒い線を描き出す。これはまるで、書道のようにも見えます。そもそも書は、このような自然から誕生したものであるから、当然のことですが……。

Q: リズム感のある画面の切り換えと、流れるような風景が印象的でした。

LX: 日本の小津安二郎の映画はすべて観ており、川端康成や東山魁夷にも“静けさの美”を感じています。そこから得たインスピレーションは大きい。この“静けさの美”は、現在の日本においては失われつつある世界なのかもしれないと漠然と感じていましたが、今回の来日で山形の地に降り立ち、心から安心しました。私の思い描く「日本の美しさ」はここ山形にはまだ存在しているからです。私の作品は東洋的思想の“無・空”を意識しています。作中こだわった点は、大自然の流れるようなリズムを大切にすることでした。編集では、風も木々のざわめきも、人々の喧騒も、すべて実際にその場で聞こえていた音を使いました。土、炎……あらゆるものが平等に生きていることを表現したからこそ、静けさの中に活力を感じてもらえる作品はできたのだと思います。私は、良いものは人類のものであり、共有の財産であると認識して生きています。

Q: 次回作についてお話しください。

LX: まもなく、鉱山で働く人々をテーマにした作品が完成します。これからも、社会の底辺で懸命に生きている人々を、そして、失われゆくものを失われる前に、平等な目で撮影していきたい。質も組織も素晴しい山形映画祭に、次回も是非参加したいとすでに意欲を燃やしています。

(採録・構成:塚本順子)

インタビュアー:塚本順子、西澤諭志/通訳:遠藤央子
写真撮影:西澤諭志/ビデオ撮影:山口実果/ 2005-10-11