イ・ホソプ 監督インタビュー
国際的なことは個人的なことである
LH: 初めに、私は映画は作品で語るもの、と考えております。本作品で私の最も表現したかったことは、会見の記事などだけでなく、実際に作品を見て理解して頂ければ、と思います。
Q: 本作品で監督の採られた表現手法について、お聞かせください。
LH: 今回は特に表現手法に重きを置きました。ドキュメンタリー作品も、制作過程の編集の作業に明らかのように、恣意性、虚構性から逃れることはできません。この点を考慮すると、ドキュメンタリー映画における表現手法は、軽視できない要素になるのです。本作品は、ダイレクト・シネマの形を取っているのですが、内容はポストモダン、超現実的なものになっています。こうしたスタイルは、ジャンルのクロス・オーバーの時代に沿ったものであると考えます。ドキュメンタリーも、時代によってその表現方法、スタイルを新しく作り替えていく必要があると思います。また、本作品を撮るにあたって、素材を生かしたい、という気持ちが強くありました。そこで、作中でナレーション、音楽は使用しませんでした。それらを加えることで、見る側のエモーショナルな部分を、刺激する操作をしたくなかったのです。ヨンジャお婆さんの声と生活の中の音だけで、観客の皆さんに何かを感じてほしかったのです。また、本作品では、敬愛する小津安二郎監督の構図やショットを、参考にした部分もありました。小津作品の、非常に東洋的な美しさ、またその印象の爽やかさからは、多くを学びました。
Q: 公式カタログでの監督の、国際的なことは個人的なことである、というお言葉について、お話しください。
LH: 私は映画を作る際、作品の主題のはらむ複雑性、多面性を大事にしたいのです。ひとりの個人を見ることによって、その背後にある国際的、政治的、文化・社会的な歴史全体が見えてくる。これからも、個人の中にそうした歴史を見つけて、その複雑性を保持しつつ、掬い取っていくような作品を作りたいと思います。本作品でも、ヨンジャさんという個人の、孤独と疎外を負った人生を捉えようとした中で、その背後には韓国の近代史、戦争の歴史があるということが、浮かび上がってきたのです。ヨンジャさんとそのご家族、すなわち個々人に、またその人間性に、戦争が与えた影響というのが、正に立ち現れてきたのです。
Q: 本映画祭でプレミア上映を、というご希望をお持ちだったというのは、何か特別な理由がおありだったのですか?
LH: 諸事情のため、実際のところはかなわなかったのですが、当初はそのように希望していました。その動機のひとつには、日本が韓国と同じような歴史を持っているということがあります。本作品に登場する、ヨンジャお婆さんの友人のエミイというお婆さんは日本人です。彼女もヨンジャさん同様、G.I.の妻となって、渡米した戦争花嫁のひとりなのです。日本人の皆さんの目には、ヨンジャさんはどのように映ったのでしょうか。日本とは全く関係のない、外国のお婆さんに見えたのか、それとも、日本からの戦争花嫁と同じようなひとりとして見てくれたのか、日本の皆さんの反応が気になりますね。
(採録・構成:早坂静)
インタビュアー:早坂静、綿貫麦/通訳:根本理恵
写真撮影:松本美保/ビデオ撮影:黄木優寿/2003-10-12