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YIDFF 2019 YIDFFネットワーク企画上映
ごちゃ混ぜこぜ
無冠のTO 監督インタビュー

多様性のある寛容な社会の実現を


Q: 今回の作品には、様々な個性を持つ人たちが登場します。題名通り「ごちゃ混ぜ」「混ぜこぜ」な印象がありますが、映画を貫くテーマは何ですか?

MT: 言いたいことはひとつ。お互いの人生哲学や活動を認め合い、多様性のある寛容な社会を実現しましょう、ということです。それを、広い意味での「性」をキーワードに提起したつもりです。人種差別や障がい者差別が良くないことは誰でも大きな声で言えますし、テレビなどで取り扱いやすいテーマです。しかし、「性」表現に携わる人々に対してはどうでしょうか。この映画では、高学歴で元公務員のAV女優が作品づくりに真剣に取り組み、これからのAV業界がどう在るべきかを真剣に訴えています。AVに対して良い印象を持たない人も多いと思いますが、彼女たちの生き方をよく知らないまま偏見を持つ人がほとんどではないでしょうか。そうした方々に、この映画を観たうえで、賛成、反対、さまざまな意見を持っていただければうれしいです。

Q: 映画のなかで、フェチフェス主宰の佐藤★サドさんは、かつては男性主導で女性に「エロい格好」をさせていたが、現在は女性が自らの意思で「エロさ」を表現するようになった、と言っていますが?

MT: 女性とか男性とかの枠に捉われず、皆が自分らしさを素直に堂々と表現し始めた、ということかもしれません。でも、まだまだ過渡期です。フェチフェス会場を一歩出れば、世の中には「性」的な表現に対する差別や偏見が満ちあふれています。山形映画祭でこの作品が公開されることで、どんな変化が起こるのか、あるいは何も起こらないのか、ワクワクします。

Q: 監督がドキュメンタリー映画を撮り始めたのは、山形映画祭の精神的支柱である、故小川紳介監督の影響も大きい、と聞きましたが?

MT: 小川監督とは、中国のドキュメンタリー映画の現状などについて、意見交換した思い出があります。小川プロの三里塚シリーズなどから、撮影対象と対等な関係を築くことでドキュメンタリー映画が成り立つことを学びました。山形県上山市に拠点を移してからも、撮影対象との関係性を徹底的に深めています。私は東日本大震災をきっかけに映像制作を始めましたが、常にそのことを思い出しながら撮影しています。無冠のTOとしてのデビュー作は、山形映画祭2013で非公式ながら満員の観客を集めた『人間(じんかん)』の再編集版『人間(じんかん)D59』です。この作品では、国内外で活躍する緊縛モデル・紫月いろはさんの人生にじっくり向き合うことができました。女性の観客の反響が大きく、ご年配の方から「私はレールが敷かれた人生だったが、いろはさんのような生き方があって良い」という感想をいただきました。

Q: 『ごちゃ混ぜこぜ』も2017年以来、制作に2年4カ月かけた作品ですね。

MT: フェチフェスのほか、「縛・万華鏡★Muse★」など多彩なイベントの出演者ら30人以上にお話を聞きました。性感染症(STD)検査専門クリニック開院に携わった元AV女優の方がいるのですが、開院に至るまでの経緯、これからの人生について本音で語ってくれています。上映後のトークに登壇していただく坊主ストリッパーの清水くるみさん、トランスジェンダーガールの妃咲姫(きさき さき)さんも、映画の肝とも言える貴重な発言をしています。今、日本だけでなく世界中で、お互いの違いを認めない不寛容な人が増えているような気がします。そんな今だからこそ、この映画を多くの人に観てもらいたいですね。

(構成:桝谷頌子)

インタビュアー:桝谷頌子/2019-08-31 山形にて